HopiHopi日記

読書日記(書評 ブックレビュー 読書感想文)に雑記少々。本を読んで、いろいろ考えます。

あの日あの時あの場所で君に会えなかったら。/内田樹 『街場の戦争論』

内田樹さんの『街場の戦争論』を読みました。

 

なんだか内田さんの本をよく読んでるな、と思って数えてみると覚えているだけで今年7冊目でした。既読本の読み返しを含めると「月一」を遥かに上回るペースでウチダ本を読んでいました。

 

内田さんの著作は最近読んだ『憲法の「空語」を満たすために』あたりから、テーマが少し変わってきたように思いますが、この本も過去の著作にありがちな「いつもの話の変奏」だけではなく、新しい論件を扱っています。それがタイトルにもある「戦争」です。

 

内田さんが従来扱われてきたトピックの論理的帰結として、戦争に行き着くというのが、この本の勘所の一つです。著者が一貫して否定してきたグローバリズムと呼ばれる大きな世界史的うねりが日本を侵食し、その最終形態として必然的に戦争が引き起こす(あるいは戦争の危機が到来する)ということが、論理的にではなく、身体的な実感として理解することができました。言うまでもなく、私が感じた実感は恐怖と絶望ですが。

 

ところで、この本の中で私が面白いと思ったのは、「弱い現実」と「強い現実」という考え方です。それは過去に余程のことがあっても実現したであろう骨太の出来事と、ちょっとした偶然で実現しなかったかもしれない脆弱な出来事の違いを表す表現です。私の理解では例えば、あなたが社会人だったら、風邪でも引かない限り平日は職場に行きますよね、これが「強い現実」。一方、お昼ご飯に何を食べるかは、その日の気分だったり体調によりますよね、これが「弱い現実」。

 

内田さんは、この「弱い現実」と「強い現実」という考え方を使って歴史に「もしも」を導入することで、現代日本の異常さを明らかにします。この本で採用されたのは、日本がミッドウェー海戦後に講和して、230万人という太平洋戦争における戦死者の大部分を失わずに済んだら?という「もしも」です。この「もしも」を検証することを通じて、戦前の延長である仮想現実との比較から現代日本から何が失われてしまったのか、ということが浮かび上がります。

 

日本史上における「もしも」は本書をお読みいただくとして、私が興味を覚えたのは、自分史に「もしも」を導入するということです。内田さんは次のように書いています。

 

僕たちは実は「弱い」現実に取り囲まれている。あのとき「もしも」ああなっていなかったら、決して現代の日本社会には存在しなかったようなものが僕たちの周りにひしめいている。僕が周りを見回したときに「薄っぺらな感じ」がするものはたぶん「弱い」現実なのです。「これはきっと、どんなに歴史的条件が変わっても、変わらずここにあるはずだ」と思えるものにはたしかな現実感がある。僕は「弱い現実」の上には自分の軸足を置きたくない。わずかな歴史的条件の変化でたちまち変質し、消え去るようなものの上には立ちたくない。カタストロフを経由しても、政体が変わっても、経済システムが変わっても、支配的なイデオロギーが変わっても、それでも揺るがないものの上に立っていたい。そのような堅牢な地盤を探り当てるための知的エクササイズとして、僕は「歴史に『もしも』を導入する」ということをご提案しているのです。(p35〜36)

 

つまり、自分の過去の出来事を振り返り「弱い現実」と「強い現実」を峻別することで、自分の「核」や「柱」を見つけ出す必要があるのではないかということです。岐路に立ったときだけではなく、普段からブレない人生を送るためにしておくべき重要な作業だと思いました。

 

僕の話をさせてもらうと、大学時代に就職活動をテキトーにしてしまったので、数年後に転職活動をする羽目になりました。たまたま選んだ会社に恵まれたので転職するかとても迷ったのですが、どうも今している仕事が自分の人生の背骨だと思うことができず、仕事と人生について考えた時期があります。

 

今にして思えば、その時僕が転職を決意できたのは、自分の人生における「強い現実」が何かということに気づくことができたからだと思います。その時、「強い現実」に人生の軸足を置くことができたのは本当にラッキーでした。恐らくはただの偶然です。しかし、自分の人生に何があっても、この「強い現実」に人生の軸足を置くことができていれば、大きくブレることは無いように思うのです。この認識は今も変わっていません。

 

皆さんも何かに迷ったり、これから迷いたくないと思ったら、自分にとっての「弱い現実」と「強い現実」とは何かを考える「知的エクササイズ」がオススメです。 

街場の戦争論 (シリーズ 22世紀を生きる)

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